ステーブルコイン普及を追い風とする日本上場企業の投資機会分析

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ステーブルコイン市場は2024年に時価総額30兆円の大台を突破し、2025年には60兆円規模への拡大が予測される急成長分野となっている2。日本国内では2023年6月の改正資金決済法施行により制度的基盤が整備され、SBI VCトレードによる国内初のUSDC取り扱い開始4 5、三菱UFJ信託銀行のステーブルコイン事業参入8 13など、本格的な事業展開が始まっている。この新興市場において、先行投資を行った日本の上場企業には中長期的な成長機会が期待される。特に金融サービス、ITコンサルティング、フィンテック関連企業が恩恵を受ける可能性が高く、投資家にとって注目すべきテーマ性の高い投資機会となっている。

ステーブルコイン市場の急速な拡大と日本への波及
1. 世界市場の成長トレンド
2. 企業決済での採用加速
日本市場におけるステーブルコイン事業の本格化
1. 規制環境の整備と事業展開
2. 大手金融グループの戦略的取り組み
投資対象としての関連上場企業分析
投資機会とリスク評価
1. 成長機会の分析
2. 投資リスクの検討
投資戦略と銘柄選択の指針
結論

ステーブルコイン市場の急速な拡大と日本への波及

世界市場の成長トレンド

ステーブルコイン市場は暗号資産市場の成長とともに急激な拡大を続けている。2024年、ビットコインが10万ドルを突破し暗号資産市場全体の時価総額が3兆ドルを超える中、ステーブルコインの時価総額は史上初めて2000億ドル（約30兆円）の大台を突破した1 2。この成長は単なる投機的な需要だけでなく、実用的な決済手段としての利用拡大が大きく寄与している。

資産運用会社ビットワイズは、米国議会がステーブルコイン法案を可決することを重要な転換点として、2025年にはステーブルコイン市場が4000億ドル（約60兆円）に倍増する可能性があると予測している2。シティグループも2025年を「ChatGPTモーメント」と位置付け、ブロックチェーン技術の大規模普及の転換点になると分析し、2030年までには最大3.7兆ドル規模への成長可能性を示唆している11。

テザー社のUSDT（1390億ドル）とサークル社のUSDC（410億ドル）が市場の約90%を占める寡占構造となっているが2、新興のステーブルコインも台頭している。特にエセナのUSDe（50億ドル超）やUsualのステーブルコイン（7億ドル）など、利回りを提供する新たなモデルが急速に成長している2。

企業決済での採用加速

ステーブルコインの普及を支える重要な要因は、企業決済での実用性の高さにある。ファイアブロックスが実施した調査によると、伝統的な銀行やフィンテック企業を含む機関投資家の90%が、業務におけるステーブルコインの利用をすでに行っているか導入を検討中であることが明らかになった3。この調査では295人の幹部を対象とし、49%がすでに決済にステーブルコインを使用しており、23%がパイロットテスト中、18%が計画段階にあると回答している。

特にクロスボーダー決済分野での活用が顕著であり、伝統的銀行の58%がクロスボーダー決済にステーブルコインを使用している3。従来の国際送金システムと比較して、高コストや遅延といった課題を解決できる戦略的ソリューションとして評価されている。回答者の48%が「決済スピードの向上」を最大の利点として挙げており、透明性の向上、流動性管理の改善、取引コストの削減といった複数のメリットが実証されている。

日本市場におけるステーブルコイン事業の本格化

規制環境の整備と事業展開

日本では2023年6月1日に施行された改正資金決済法により、法定通貨担保型ステーブルコインが「電子決済手段」として位置づけられ、発行・流通が可能となった5。この制度的基盤の整備により、国内金融機関やフィンテック企業による本格的なステーブルコイン事業が始動している。

SBI VCトレードは2025年3月4日に「電子決済手段等取引業者」として国内初の登録を完了し、3月12日よりUSDCのベータ版サービスを開始、3月26日には一般向けサービスを正式開始した4 5。これは日本におけるステーブルコイン取引の歴史的な第一歩となっており、他の国内取引所への波及効果も期待される。

三菱UFJ信託銀行は、デジタル基盤会社「プログマ」と連携し、昨年末にステーブルコインのシステム開発を完了したと発表している8 13。窪田博新社長は「コストが安く決済が早い。社会課題の解決に貢献する」と評価し、当初はカーボンクレジット取引から始め、将来的には貿易決済への展開も視野に入れている。同行は新規事業領域で2034年までに粗利300億円を目指す方針を示している13。

大手金融グループの戦略的取り組み

GMOインターネットグループは野村ホールディングスおよびLaser Digitalと、日本円と米ドルのステーブルコイン検討に関する基本合意書を締結した10。GMOの米国現地法人GMO Trustは、ニューヨーク州金融サービス局の認可のもと、日本円ステーブルコイン「GYEN」と米ドルステーブルコイン「ZUSD」を発行している実績を持つ。

この提携により、日本円および米ドルのステーブルコインの発行・償還・流通の仕組みを検討するだけでなく、「ステーブルコイン・アズ・ア・サービス」ソリューションの提供も計画している10。このサービスには規制やコンプライアンス管理、ブロックチェーン技術の統合、トランザクション管理などが含まれる包括的なソリューションとなる見通しである。

既存の暗号資産取引所においても、GMOコインがDAI（米ドル連動型）を取り扱っており6、bitFlyerも2024年2月にDAIの取り扱いを開始している7。これらの動きは、国内におけるステーブルコイン流通基盤の着実な拡充を示している。

投資対象としての関連上場企業分析

金融セクター：先行投資企業群

**三菱UFJフィナンシャル・グループ（8306）**は、グループ傘下の三菱UFJ信託銀行を通じてステーブルコイン事業に最も積極的に取り組む大手金融機関である8 13。同行のステーブルコイン「プログマコイン」は、Speee子会社のDatachainやソラミツなどとの技術提携により開発が完了している12。新規事業領域で2034年までに粗利300億円を目指すという具体的な収益目標を掲げており、ステーブルコイン事業がグループ全体の成長戦略の重要な柱として位置づけられている。

SBIホールディングス傘下のSBI VCトレードは、国内ステーブルコイン市場の先駆者としてのポジションを確立している4 5。USDCの国内初取り扱いにより、海外ステーブルコイン市場と日本市場を結ぶ重要なゲートウェイ機能を果たしている。SBIグループの総合金融サービス戦略の中で、デジタル資産事業は成長分野として重要な位置を占めており、ステーブルコイン普及による取引量増加が収益拡大に直結する構造となっている。

**野村ホールディングス（8604）**は、Laser DigitalとGMOインターネットグループとの提携により、デジタル資産分野での専門性を活かしたステーブルコイン事業参入を図っている10。伝統的な金融機関としての信頼性とデジタル資産の専門知識を組み合わせることで、機関投資家向けのステーブルコインサービス展開が期待される。

ITサービス・フィンテック関連企業

**GMOインターネットグループ（9449）**は、米国子会社GMO Trustを通じてステーブルコイン発行の実績を有する唯一の日本企業である10。GYEN（日本円連動）とZUSD（米ドル連動）の発行実績により、技術力と規制対応力の両面で競争優位性を確立している。野村ホールディングスとの戦略的提携により、日本市場でのステーブルコイン事業拡大に向けた基盤が整っている。

**フューチャー（4722）**は、100以上の企業・自治体・関係省庁で構成される「デジタル通貨フォーラム」の座長企業として、デジタル通貨実用化の中核的役割を担っている12。同社の山岡浩巳取締役（元日銀金融市場局長・決済機構局長）が座長を務めており、政策レベルでの影響力を持つ。企業のDX化支援を主力事業とする同社にとって、デジタル通貨・ステーブルコインの普及は中長期的な成長ドライバーとなる可能性が高い。

**アステリア（3853）**は、2021年にファンドを通じてステーブルコイン事業のJPYCに出資しており12、早期からステーブルコイン分野への投資を行っている。同社のデータ連携・API関連技術は、ステーブルコイン決済システムの基盤技術として活用される可能性がある。

**Speee（4499）**は、子会社Datachainが三菱UFJ信託銀行のプログマコインの技術開発に参画している12。ブロックチェーン技術とデータ解析技術を組み合わせたソリューション提供により、ステーブルコイン事業の技術パートナーとしてのポジションを確立している。

商社・事業会社

**三菱商事（8058）**は、デジタル通貨フォーラムの産業流通分科会でバイオマス燃料の海上輸送取引での実証実験を主導している12。商社の国際取引ネットワークとステーブルコインを組み合わせることで、貿易決済の効率化と新たな金融サービスの創出が期待される。

投資機会とリスク評価

成長機会の分析

ステーブルコイン市場の急速な拡大は、関連企業にとって複数の成長機会を提供している。まず、取引手数料収入の拡大が期待される。SBI VCトレードのような取引所運営企業は、ステーブルコイン取引量の増加により直接的な収益拡大が見込める。シティグループの予測通り2030年までに3.7兆ドル規模の市場が形成されれば11、取引所の収益規模も大幅に拡大する可能性がある。

次に、企業向けソリューション事業の拡大機会がある。ファイアブロックスの調査で示された通り、90%の企業がステーブルコイン利用を検討している状況は3、ITコンサルティングやシステム開発企業にとって大きな商機となる。フューチャーのようなDX支援企業は、ステーブルコイン導入コンサルティングや関連システム開発で新たな収益源を獲得できる。

さらに、金融サービスの多様化による収益機会もある。三菱UFJ信託銀行が目指す新規事業領域での粗利300億円13のように、従来の金融サービスでは実現困難だった新たな収益モデルの構築が可能となる。特にクロスボーダー決済サービスは、従来の国際送金と比較して高い収益性が期待される。

投資リスクの検討

一方で、ステーブルコイン事業には複数のリスクも存在する。規制リスクが最も重要な懸念事項である。シティグループが指摘するように、2023年には1900件の「ペッグ乖離」が発生しており11、シリコンバレーバンク破綻時のUSDCの大幅なペッグ乖離のような事例は、市場全体への信頼性に影響を与える可能性がある。

技術的リスクも考慮すべき要因である。ブロックチェーン技術は比較的新しい分野であり、セキュリティ上の脆弱性やシステム障害のリスクが存在する。また、競争の激化により、先行者利益が持続できない可能性もある。USDTとUSDCが市場の90%を占める現状2において、新規参入企業が十分な市場シェアを獲得できるかは不透明である。

市場規模の不確実性も重要なリスクである。ビットワイズの楽観的予測に対して、普及や統合の課題が続く場合、ステーブルコイン市場は5000億ドル程度で安定する可能性もあるとシティが指摘している11。この場合、期待されているほどの成長が実現しない可能性がある。

投資戦略と銘柄選択の指針

短期的投資戦略

短期的には、ステーブルコイン事業への具体的な参入を表明し、実際にサービス開始のタイムラインが明確な企業への投資が有効と考えられる。三菱UFJフィナンシャル・グループは既にシステム開発を完了し、サービス開始の最終段階にあるため13、短期的な材料視による株価上昇が期待できる。

SBIホールディングスは既にUSDC取り扱いを開始しており4 5、取引量の拡大による業績への貢献が四半期ごとに確認できる状況にある。暗号資産市場の好調が続く限り、ステーブルコイン取引量も増加傾向が継続する可能性が高い。

GMOインターネットグループは、野村ホールディングスとの提携発表により10、ステーブルコイン事業への本格参入への期待が高まっている。提携の具体的な進展や新サービス発表により、株価への好影響が期待される。

中長期的投資戦略

中長期的には、ステーブルコイン市場の拡大により持続的な成長が期待できる企業への投資が重要となる。フューチャーのように、デジタル通貨フォーラムでの影響力を持ち、DX支援事業でステーブルコイン関連需要を取り込める企業は、市場拡大の恩恵を長期的に享受できる可能性が高い12。

技術力を持つ企業への投資も有効である。Speeeのように実際にステーブルコイン開発に参画している企業12は、技術的な参入障壁により競争優位性を維持できる可能性がある。また、アステリアのような早期投資企業12は、投資先の成長により間接的な恩恵を受けられる。

国際展開力を持つ企業も注目すべきである。三菱商事のような総合商社は12、グローバルな事業ネットワークとステーブルコインを組み合わせることで、新たな金融サービスを創出できる可能性がある。特にクロスボーダー決済の需要拡大により、長期的な成長機会が期待される。

リスク管理と分散投資

ステーブルコイン関連投資においては、リスク管理が重要である。単一銘柄への集中投資ではなく、金融機関、ITサービス企業、技術企業など複数セクターへの分散投資により、特定企業の失敗リスクを軽減することが推奨される。

また、ステーブルコイン事業の進捗状況を定期的にモニタリングし、規制環境の変化や競合状況の変化に応じて投資判断を見直すことが重要である。特に、米国や欧州でのステーブルコイン規制の動向は、日本市場にも大きな影響を与える可能性があるため、継続的な情報収集が必要である。

結論

ステーブルコイン市場の急速な拡大は、日本の上場企業にとって重要な成長機会を提供している。2025年には市場規模が倍増する可能性があり2、企業決済での採用も加速している3中で、先行投資を行った企業には中長期的な競争優位性の確立が期待される。

投資対象としては、具体的な事業展開を進める三菱UFJフィナンシャル・グループ、SBIホールディングス、GMOインターネットグループが短期的な注目銘柄となる。中長期的には、フューチャーやSpeeeのような技術・コンサルティング企業、および三菱商事のような国際事業展開力を持つ企業が持続的成長の恩恵を受ける可能性が高い。

ただし、規制リスクや技術的リスクも存在するため、分散投資によるリスク管理と継続的な情報収集が重要である。ステーブルコイン市場の発展は始まったばかりであり、長期的な視点での投資戦略が成功の鍵となるであろう。

出典